築100年の古民家が育む農村の拠点

上大沢里づくりの拠点施設 / Kobe

上大沢里づくりの拠点施設 / Kobe

神戸市北区大沢町に生まれた地域の拠点施設「一十土(いっとうち)」。一十土を運営する吉田さん夫婦のアイディアにより、古民家で暮らしながら民泊やイベントなどで場をシェアする運用を行うことに。築100年の民家を開いた場所にするため、MuFFが改修設計を行なった。

住み続ける選択

吉田さんが神戸地域おこし隊として東京から移住してくる時に、町が用意してくれていたのがこの家だった。「古い建物で初めは少し驚きましたが、住んでいるうちにすっかり居心地が良くなりました。地域おこし隊の任期が終わるタイミングで自分たちの活動ができたら良いなと思い始め、大家さんにリノベーションを行う相談をしてそのまま継続して借りています」

対話を繰り返しながら

お二人からのオーダーと設計側からの提案は、丁寧にキャッチボールを行いながらすり合わせたという。「できればワンルームくらいの感覚にしてほしいということは伝えていました。補強の筋交いを入れたりはしたものの壁はできるだけ取っ払ってもらって。ドーンと広く開放感があって、使い勝手の良い空間になったと思います。念願だった薪ストーブと共に過ごす時間ができたことも嬉しい。改修作業で出た廃材で1年目の薪はまかない、今では薪作りもすっかり日課になってきていますよ」

MuFFからの提案で驚いたのは、全面を土間にするというプラン。30年以上前に増築されたところが古くなっていて一部を土間に戻そうかという話はしていたが、一緒に考え始めると建物の内外の境界がゆるやかになり活用の幅が広がりそうだと心得た。志穂さんは「朝日が入ってくるのを眺めながら、土間でコーヒーを飲む時間がすごく気持ち良いです。改修前は陽が入らなかった場所が、土間を広げたことで朝日が差し込むようになりました」と、和かな風景について話してくれた。

使っていなかった場所にハシゴを掛けると屋根裏部屋に続くようになり、建物内から茅葺き屋根が綺麗に見える。天井を全て抜くと暖房が効かなくなるのでそれも大変。このあたりもお互いに意見を出し合って一つずつ解決した。

続く場所づくり

「設計と地元の工務店と顔がしっかりと見える関係で進めることができ、それぞれの考えがよく分かるようになりました。味のある古い部分は残したいという価値観を共有しながら、限られた予算でより良くしていくという目線も合っていたと思います。最近、納屋にキッチンを付けてもらったり、バーベキューのできるスペースを作りたいとも考えています。まだまだやりたいことがあってサグラダファミリアのように古民家改修も終わりがないかなって思っています」

元々インテリアに興味があり、改修する機会にあわせて長く使いたいデザインの家具を選び、工事中は新たな椅子などが倉庫に溜まっていくことにワクワクしていたそう。LA滞在中にアーティストから直接購入したセラミックの作品なども愛おしそうに話をしてくれた。遊びに来てくれたお客さんとお気に入りの家具について話をする時間は喜びもひとしお。

様々な人と豊かな時間を交わし、好きなものに囲まれて家が育っていく。一十土の存在自体が、農村地区から放つ美しい光のように感じた。

文:寺田 愛