MUFF20周年の節目に、改めて今MuFFが興味を持っているテーマについて話をしてもらおう!という企画の第一弾。モデレーターを務めてくれたAKINDの岩野氏のNOTE記事に会の振り返りと考察が記されていますので紹介させていただきます。
Special thanks !
「なぜ、今また“里山”なのか?」 「自然と人の関係を、どう再設計すればいいのか?」 「稼ぐためではなく、生きていくために、何を選び取るのか?」
最終回となる第3回では、「REDESIGNING SATOYAMA|里山との関わりをデザインする」をテーマに、都市と自然、経済と非経済、レジャーと暮らしの境界を問い直す対話が行われました。
登壇者:建築家・今津修平さん(MuFF)、木材コーディネーター・山崎正夫さん(SHARE WOOD)、園芸家・藤田毅さん(RIVERWORKS)、野遊びデザイナー・大谷晃平さん(大谷開発)
自然という非経済的営みに手をかけ、自らの生存力を心地よく高めていく感覚。所有ではなく関係として自然とつながることで、暮らしの“風景の解像度”が高まり、豊かな生の感受性が育まれることが語られました。
里山を再生することは、自分の“生”をもう一度考えること
「都市ばかり考えていると、根が抜けるような感覚があったんです。」
そう語るのは、MuFF代表の今津修平さん。彼が手がける「NiDoNe」は、都市における関係性を再構築する場であり、その問いはやがて自然と「里山」へと向かいました。

2020年、コロナ禍を機に宅地と山林を併せた約12,000㎡の土地(建物)を取得し、整備を開始。「IMAYAMA」と名づけたこの里山リノベーションでは、森や野原の中で生き物たちと共生しながら「生きる知恵」を学ぶプログラムが展開されています。多様な人々がゆるやかに関わり合う、新しい里山コミュニティが育まれています。「里山をつくるというのは、自分たちがどう生きるかを、ちゃんと考えることなんです」と今津さんは語ります。
丹波篠山の「やまもりサーキット」を創業した大谷晃平さんも、里山との関わりを通じて生き方を問い直してきた一人。かつて遊んだ川が汚れ、自然が失われていく現実を前に、自ら「山守」となり、自然保全とアウトドア施設の運営を両立させています。

また、大谷さんが語った「野遊びをレジャーで終わらせたくなかった。それは暮らしであり、生き方にしていきたい」「所有していない山を“自分の里山”と思える」感覚も印象的でした。所有とは異なる関わり方——関係としての文化が、今まさに芽吹いています。
都市と自然は対立するものではない。
里山とは、暮らしと自然の関係を、手の届く範囲で結び直すための入り口なのだと気づかされます。
自然と関わることは“稼ぐ”ことではない。でも、“無関係”でもない
「昔は山で木を切り、炭を焼いていた。それが生活のエネルギー源だったんです。」
そう語るのは、木材コーディネーターの山崎正夫さん。かつて里山は、暮らしに必要な資源を供給する、経済合理性のある存在でした。けれど、現代ではエネルギーの中心が電気に移り、里山は人々の生活から遠ざかってしまいました。

山崎さんは、山と街を再び結び直すための実践を続けています。「KAJON PROJECT」などを通じて、「森=供給者」「街=消費者」という一方向の関係を問い直し、「木がどこから来て、誰の手を通り、どんな暮らしに届くのか」という“物語”を再接続しようとしています。
六甲山は人工植林によって再生されたものの、林業をベースにしてこなかったため、保全が進まず、荒廃が進んでいます。山崎さんは、行政と協働しながら伐採から乾燥・製材・流通に至るまでのサプライチェーンを再構築し、持続可能な木材の活用を目指しています。
経済の論理では“非効率”とされる営みこそが、自然のサイクルや人間のリズムに最も合っている。だからこそ「非経済林」と呼ばれてきた里山に、いま改めて光が当てられているのです。
自然とともに働くことは、単なる技術の蓄積ではなく、「インフラの質そのもの」を変えていくこと。それは、「自然との共生」を身体のレベルで再編集していくプロセスなのかもしれません。
土に触れたい。植物と関わりたい。風景と生きたい。
園芸家・藤田毅さんは、都市の中で自然との関係性を再設計する実践を重ねています。
「Green Commons」では、神戸の街なかの花壇を市民が主体となって育て、まちの魅力を高めるムーブメントを展開。「NATURE STUDIO」では、廃校を再活用し、有用植物をテーマに食べられる・使える・効く植物を育てる園芸活動を行なっています。これらの活動は単なる園芸ではなく、「自然との関係を自分たちの手でデザインし直す」実践です。

「人は“本物”に引き寄せられる。フェイクが増えている今だからこそ、土や植物に触れることで、自然的な感情が内側から湧いてくるんです」と藤田さんは語ります。土に触れる。植物を育てる。自然を味わう。そうした身体的な経験が、風景への“解像度”を高めていきます。
神戸市では、「Living Nature Kobe」というブランド戦略を推進中。神戸に暮らす人・訪れる人が、植物の変化に心を寄せ、自然の心地よさとともに暮らす風景を育むことで、「自然と共に暮らす都市・神戸」を目指しています。
いま、人びとは「自然とどう関わるか」を静かに模索しはじめています。それは、生きる力を育む、穏やかな回復運動のようにも見えます。
おわりに|自然との関係性を、どこからやり直せるか?
第1回“Urban Democracy”では、「自然との関わりが、市民のまちづくり参加の起点になる」という視点が語られました。そしてこの第3回 “Redesigning Satoyama”では、自然と関わりたいという無意識的な欲望を発動させること、自然を通じて生きる力を育むこと、そして、自然との関わりを通じて、一人ひとりの生存力が高めていくことの重要性を学びました。

「便利になったのに、なぜ息苦しいのか?」「効率的になったのに、なぜ手触りを求めるのか?」こうした違和感の背景には、自然との関係性の断絶があるのかもしれません。けれど、都市に住んでいても、自然を所有していなくても、関わる可能性は開かれています。
無意識的な自然への欲望を、自分の暮らしに引き戻す。稼ぐためではなく、生きるために、自然に手をかける。
そんな態度のことを、私たちは“Redesigning Satoyama”と呼びたいのだと思います。
3回連続イベントを終えて|都市と暮らしと自然の“再接続”に向けて
3回を通じて見えてきたのは、「都市」「暮らし」「自然」との関係性を、システムの外側から捉え直し、再構築していく姿勢でした。
- 第1回 “Urban Democracy” → 非制度的な視点で都市を遊ぶ
- 第2回 “Creative Connectivity” → 非経済的な活動体を楽しむ
- 第3回 “Redesigning Satoyama” → 非所有的な姿勢で自然と関わる
日常の政治性を通じて、都市と対話すること。仕事ではない“暮らし”に寄り添った活動に取り組むこと。自然と向き合い、生きる力を静かに回復していくこと。
それぞれの回で問われていたのは、「制度」「経済」「所有」といった既存システムのフレームを超え、新たな関係性を編み直すための視座だったのではないでしょうか。MuFFがこの連続企画で提示したのは、「都市をつくりなおす」のではなく、「都市との関係を編みなおす」という実践です。

制度の外側から、都市や自然とつながり、人とともに在る。そのための小さな選択の積み重ねこそが、これからの社会のあり方をかたちづくっていく——
そんな営みを、これからも大切に育んでいきたいと願っています。

岩野 翼 | Tasuku Iwano
株式会社AKIND 代表取締役 CEO|神戸在住|二児の父
英国ブルネル大学(Brunel University London)にてブランディング&デザイン戦略の修士課程を修了。2014年、地元・神戸にて「百年続く、三方よしの商いを共につくる」ことを掲げ、株式会社AKINDを創業。
企業や地域の“内側”から前向きな変化を育むブランディングファームとして、対話型組織開発やデザイン思考を組み合わせたブランドマネジメントを実践。経営理念の再定義から商品開発・コミュニケーションまで、一貫したブランド戦略づくりを支援している。
これまでの主なプロジェクトに、Peach Aviationのブランドマネジメント、ANAグループのビジョン策定、経済産業省のMVV策定、「食都神戸」や神戸ウォーターフロントの都市ブランディング、道の駅FARM CIRCUSのブランド開発などがある。
