敷地は多紀連山の麓、丹波の自然と山の幸に恵まれた草山盆地にあります。
隣接する温泉施設とキャンプ場の休憩施設として、また地域の魅力を伝え育てる場として計画した施設です。
1階には地域特産品の販売所、地域食材の加工場としてのシェアリングファクトリー、地元のパン屋さんが入った飲食のテイクアウト店があり、2階には360°広がる風景を楽しめる屋外休憩スペースを計画しました。
まず、地域の里山の自然環境に倣ったランドスケープをつくり、建物もそのランドスケープの一部として存在するような在り方を考えました。
建物は架構形式そのものが現れて存在しており、建物中央に設けた穴からはきれいな空を眺める事ができます。その穴から入ってくる美しい太陽の光が、時間と共に変化する自然環境と建物とを繋げてくれています。
建物の構造形式は大きな通し柱を円周上に外側に18本、内側に9本並べ、内側と外側の架構を繋ぐ登り梁を放射状に配置しています。1階の壁を強固に固めることで、2階には壁のない周囲の美しい山々の風景をパノラマとして体験できる空間を創り出しました。
建物を取り巻くように円周上に設けたスロープや、南側谷方向の視界の広がる風景に向けて設置した大階段が大地と建物の自然な繋がりを生み出してくれており、景観的にも体験的にも地域の自然豊かな環境と一体となった人々が集う場が生まれたのではないかと考えています。

所在地 :丹波篠山市
用途  :休憩施設
延床面積:190.99㎡
設計監理:今津修平+川上真誠+北川浩明+姫治恒太
構造設計:清水良太構造デザインスタジオ
施工  :あかい工房
サインデザイン:KUUMA
ランドスケープデザイン:内田圭介/ミドリデザイン
竣工  :2022年3月
写真  :今津修平
受賞  :2022年 地域材利活用建築デザインコンテストin兵庫 最優秀賞
2023年 第15回くすのき建築文化賞コンク-ル特別賞


interview
2023年10月

丹波篠山で運営していた天然温泉施設を、2022年4月「湯あみ里山公園 pucapuca commune(ぷかぷかコミューン)」へリニューアル。1階には産直所やベーカリーカフェなど地元の産物に触れられるお店が入り、2階のデッキからは豊かな自然を見渡すことができるようになった。
代表の大谷さんが幼い頃から見てきた丹波篠山の景色に対して感じていることや、どのような思いでリニューアルを通じて次世代へつなげていこうとしているのかお話を聞いた。

地元の良さを知ってもらえる施設に
大谷さんの曽祖父が江戸時代から続く村営温泉に湯治目的で訪れ、村の人とコミュニケーションをとりながら通い続けるうちに温泉を引き継ぐまでに。その後継続して4代目として温泉施設を託されてからは、より温泉を楽しめるようにと2019年7月に目の前でキャンプ場を始めた。
さらに、キャンプとともに丹波篠山を味わえるような村の活動ができないかと考え、温泉施設の老朽化もあり里山公園へのリニューアルに動き出すことになった。

いろんな人が関わることで環境も変えていきたい
幼い頃からよく訪れていた場所だったが、数年前に近くの川が汚れていたことに気付き危機感を感じた。崖だった場所を開発で埋め立てた場所もあり山の地形に戻していけるようにも考えているそう。
「もうちょっと里山の環境自体を元気にして、子供たちの未来に還元できるような場所にしたいなと思っています。最近川を見ると少しずつ綺麗になっているんですよ。やっぱり人が入って川底を踏む機会が増えるだけでも苔が落ちたりして変わってくる。みんなが遊べば遊ぶほど山を守ることにもなるんですよね」と語る。

ランドスケープと調和する建築
山と一体になるような建築物を目指していて、木造で耐力壁がない円形の構造というのが珍しく開放感は十分。土を敷いた大きな屋根もポイントになっている。屋根は、あえて土だけを敷いていて周りの植物から種が飛んできて育つような自然形態を活かしたいと考えた。
他にこだわったのは、五感で感じる空間にしたいということと、遊びを発見する場でありたいということ。2階にいると風が抜ける音や感覚を肌で感じとることができ、あえて遊具を置いていないので子供たちは四季によって違う里山の植物などで遊ぶことに夢中になるそうだ。

森が育っていくまで
オープンから1年が経って周りのビオトープにも進化がみられた。「最初は土しかなかったんですけど、ちょっと田んぼの土を入れたり周りの自然から取ってきたもので稲科の植物が水辺に入るようになってきて。まだまだ完成には程遠いですが少しずつ良くなってきています。5年とか10年とかをかけて森に還していくようなイメージを持っています」

大谷さんのお話には、この場所へやってきた方にどう楽しんでもらうかという思いが根っこにあり、植物のことになるといっそう活き活きしていた姿が印象に残った。
今後もこの場所をベースに、一つずつ新しいことを生み出していきたいと計画を練っているところだそうだ。

文:寺田 愛