柱間装置のブリコラージュ
三田城下の面影を色濃く残す本町通り。その西端に建つ大正期の町家、岡村邸の改修計画である。本計画は、景観重要建造物として歴史的な主構造やファサードを保存しつつ、地域に開かれた店舗へとコンバージョンする試みである。設計の主題は、内田祥哉が指摘する「間戸(柱間)」の流動性と、積層した時間のブリコラージュによる空間の再編集にある。
日本の古い民家や町家は、構造体である「柱」とその間を埋める「間戸(建具)」が明確に分かれており、建具を取り替えることで空間を柔軟に定義してきた。
本計画で実践した様々な柱間装置の編集のひとつとして、かつて建物の外皮として風雨に晒されていた雨戸を内部空間を仕切る引戸として柱間に納め、交換可能な空間装置として転用している。雨ざらしで褪色し、自然が描いたそのテクスチャーはこの建築が経てきた時間の積層そのものである。用途変更に伴い通り土間等の既存内装を撤去し、往時の架構を露出させた空間において、この雨戸は新たな機能を与えられつつ、過去の記憶を内部に定着させる。
この素材の扱いは、谷崎潤一郎が『陰翳礼讃』で愛でた、古びたものが纏う「手沢」や「時代がつく」という美学に呼応する。一方で、保存される伝統的な木造架構の柱間には、あえて古民家には用いられない現代的なマテリアルを挿入している。突き当たりの壁には『陰翳礼讃』で語られる金屏風になぞらえた鈍く光る金属板を設え、仄暗い空間の中でかすかな光を拾い集める。また、減築してできた吹き抜けに面した手すりにカラーガラスを嵌め込み、時間とともに移ろう光を変換し内部に落とし込んでいる。歴史的な骨格にこれら無機質で精緻な異素材が対峙することで、過去と現在が交錯する。古い雨戸や土壁がもたらす陰翳と、現代素材の放つ光沢や透過性が共鳴し、空間に詩的な奥行きを与えている。
現代の息吹を内包し歴史的景観を継承する町家が、再び人々の集う生きた建築として、三田の街に新たな風景を紡ぎ出すことを目指している。

















information
| 所在地 | 兵庫県三田市 |
| 用途 | 飲食店 |
| 計画面積 | 103.92㎡ |
| 企画監修 | 三田地域振興 |
| 設計監理 | 今津修平+矢野直子 |
| 耐震設計 | WASH建築設計室 |
| 施工 | あかい工房 |
| 竣工 | 2026年3月 |
| 写真 | 岡田和幸 |




