風土の気配
三宮の繁華街、テナントビルの6階に位置する飲食店の計画。
眼下には街の喧騒があり、その気配は窓を通して店内まで届いてくる。
神戸という土地は、海から六甲の山々に至るまで多様な文化圏が層をなしている。この店は地表から一段離れた高さにありながら、風土の記憶をこの部屋に呼び込んでいる。
建物の外形や階高、テナントとしての躯体の条件は、経済合理性が優先された形状であった。この計画では、その形状をひとつの環境として受け入れることを選んだ。一方で厨房やトイレなど、新しく建てた壁は、来客を迎え入れるようにわずかに角度を振っている。躯体の形状を受け入れながらより自由に振る舞えないかと考えた。
素材・光・動線のトーンを低彩度に整えて全体を調和させながら、席ごと・季節ごとに触感や光量の差を残し、個の存在を消さない。これが「和爾不同」の考え方である。光は「陰翳礼讃」の作法にならい、直接光と間接光を丁寧に配分し影をつくりだす。布を透過させた柔らかな光と、奥に残す暗がりが、気配をひそめた奥行きをつくっている。
素材には、神戸の海や山の記憶が刻まれている。床には、兵庫運河で潮風にさらされ役目を終えたイペのデッキ材を再利用した。壁には神戸の山砂を用いた左官を施し、立ち枯れた栗の木を配した。ファブリックには神戸の海から山に至る風景を転写し、6階の窓に透けて見える街の明かりと重なり合いながら揺れる。
経済合理性が決めたテナントビルという「不同」と、そこに宿る土地の記憶という「和」。この二つは同一化せず、それでも調和して息をしている。
繁華街の只中、地上から離れたこの一室で、訪れる人が街の背景にある風土の気配を身体で感じ取れること――それが、この空間が目指す「気配と滲み」である。










information
| 所在地 | 神戸市 |
| 用途 | 飲食店 |
| 計画面積 | 54.13㎡ |
| 設計監理 | 今津修平+井手美羽 |
| 施工 | LOOWE |
| スタイリング | credenza |
| テキスタイル | ENSE+yoa_fabric |
| 木製建具 | 塩田木材工業 |
| 床木材 | SHAREWOODS |
| 左官 | M&K |
| 金物製作 | Atelier Tuareg |
| 竣工 | 2026年6月 |
| 写真 | 岡田和幸 |




