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所在地 :神奈川県逗子市
用途  :保育所
延床面積:84.76㎡
企画監修:ごかんたいそう
園庭計画:ごかんたいそう
設計  :今津修平+吉川亮+北川浩明
施工  :萬美堂
竣工  :2019年9月
写真  :今津修平


interview
2023年11月

2012年4月に開園した逗子海岸近くにある古民家を改修した保育施設「ごかんのいえ」と、近くの森の中にあるもう一つの園舎「ごかんのもり」。古民家のDIYを手伝ったり様々な雑談をする中で、自然と新園舎「ごかんのもり」を建てる際の設計として関わるようになった。
保育とアート、パーマカルチャーをベースに、保育事業を立ち上げたNPO法人ごかんたいそうの代表・全田和也さんにお話を聞いた。

自分で作ろうと思い立って
自身の息子が乳幼児の頃子育てで悩んでいた時期があり、試行錯誤する中で子どもたちの暮らしの場を作ろうと思い立ったという。保育の知識も経験も全くなかったが、イメージだけはぐんぐん広がり半ば衝動で動き始めていたと話す。そんな全田さんの熱量に引き寄せられた方々と共に、小さな古民家に少しずつ手を加えてあたたかい園舎「ごかんのいえ」が生まれた。

開園後しばらく経ったある時、子どもたちと生活したいなぁと感じる場所に出会った。歩いて15分くらいの山中にポンと開けた場所があり、再び全田さんの妄想は広がり、もう一つの園舎「ごかんのもり」を作ることに。建物にある大きなデッキはパーマカルチャー農園につながっている。農園では季節ごとに野菜を育てて、自分たちで給食調理まで行なっているそうだ。「活動や思いに共感してくれた方や保護者が集まってくださって開墾するようなところから始まりました。一般的な保護者と保育者という関係性とはちょっと違う特殊な感じだったと思います。保育ってサービス化が進んでいるように思いますが、そうではない、みなで一緒に創る空気感があり、多くの方々に支えてもらいました」と振り返る。

建築家というよりもセッション相手
全田さんと今津は、施主と建築家の関係性とは少し異なる印象を受けた。保護者との向き合い方と同じく、独自の関係性を育んできたようだ。
「お互い表現者でセッションしている感覚で話をしています。それが楽しいし、結果的に自分だけで飛躍できなかったところまで想像が進むということが多くて。要件定義をする前に話をするようにしていました。建築家って、ある部分ではカウンセラーだし社会学者だし、アーティストの側面も持っています。政治や義務教育の話だったり雑談しかしていないかのような時間も多かったんですけど、その話からエッセンスがこぼれ落ちてくるようでした。話をした後に間を置かず、スタディプランを何パターンか描いてきてくれたりして。たくさん話をしていたのでそこからは早かったですね。未完成感を残して手を止めて欲しいという建築設計者として難しいお題も伝えていました」

子どもの人生も、建物も見届けきることができない
「子どもの人生って見届け切ることができないし、建物や事業だと何百年先にも残るかもしれない。これからの世代や今後の使われ方について想像するんです。ロマンもあって面白いです。建築や事業も子離れ親離れと同じだと思うとしっくりくることがあります。場は時間をかけて段々と自立していきますが、どこまでいっても心配がなくなることはないかもしれません」と全田さんは続けた。

園で植えた果実は、10年くらい経った頃にレモン、ゆず、さくらんぼ、プラム、イチヂク、梨など様々な種類が実りはじめたそう。自然の中で鳥にも食べられながら人間のだけのものでないことを園児が知る機会がある。また、給食の醤油や味噌は全て園で作り、卒園式では野菜の種や醤油をお祝いで渡しているという。

無数のセッションから生まれた保育の場。種を受け取ったそれぞれの子どもたちやいきものが、たくましく生きる力を育んでいるようだ。

文:寺田 愛